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教授ご挨拶


石神康生教授

 九州大学放射線科のホームページをご覧くださって、ありがとうございます。令和2年(2020年)4月より教授に着任した石神です。九州大学放射線科は昭和4年(1929年)に開講した伝統ある教室であり、私は6代目の教授になります。

 まず、簡単な自己紹介をさせていただきます。私は熊本県出身で、平成7年(1995年)に九州大学を卒業し、九州大学放射線科に入局しました。九州大学医学部附属病院および東京の国立国際医療センター(いずれも当時)で研修し、九州大学放射線科とその関連施設で放射線科医としての修練を積みました。また、米国のアイオワ大学放射線科で計5年間臨床と教育に従事し、琉球大学放射線科にも約2年間勤務しました。

 放射線医学は画像診断と放射線治療(放射線腫瘍学)の二つの分野に大別されます。九州大学放射線科も開講当時は放射線治療学講座としてその歴史をスタートし、現在は診断医と治療医とが一緒に教室を運営しています(現行の専門医制度では放射線診断専門医あるいは放射線治療専門医のいずれか一方を取得できます)。また、核医学、画像下治療(interventional radiology [IVR])は診断医、治療医のいずれもが携わることが可能な分野です。そして当教室では、消化管造影の伝統を受け継いで内視鏡診断・治療も行っています。私は診断と治療とが一緒に教室運営を行っていることは当科の強みだと考えています。放射線治療、画像診断の最新技術の融合は放射線治療における個別化医療に生かすことができます。また、画像下治療(IVR)、核医学、基礎研究を介して画像診断、放射線治療が有機的に結びつくことで臨床と研究がさらに発展することも期待しています。内視鏡診断・治療は放射線科としては異色かもしれませんが、multimodalityの先駆であり、医局員の進路選択の幅を広げています。

 人工知能(artificial intelligence [AI])の医療への参入が放射線科のあり方に大きな変革をもたらすことは疑いありません。私が放射線科医となってから四半世紀が経過しました。当時を振り返ってみると、我々を取り巻く社会も放射線医学のあり方も大きな変貌を遂げています。当時は、ポケットベルで病棟からの連絡を受け、シャーカステンにフィルムをかけて10㎜スライス厚のCTを読影し、スライド作成はアナログカメラで撮影していました。20年位のスパンで考えてみると、医療以外の職種でも多くのことが驚くほど変貌しているはずです。現在のAIをあげつらっているだけでは将来を見誤ります。AIは将来的には現在我々が行っていることのかなりの部分を任せられるようになるのではないかと思っています。その一方で、AIが放射線科医の負担を軽減し、新たな画像診断、放射線治療技術の開発を後押しする画期になるのではないかとも考えています。

 医局の教授室には、二代目教授の入江英雄先生直筆の「荊棘の道と知りつつわけ入りし この荊棘の道を愛したまひき」という書が額に飾られています。これは、教室を開講した初代教授の中島良貞先生に思いをはせながら、後発の診療科の困難な道のりを「いばらの道」になぞらえて、新たな放射線医学という道を切り開く気概とその道への愛着を表したものです。放射線科は中央診療部門として多くの診療科との係わりがあります。他の診療科に役立つことが存在意義でもある診療科であるからこそ、質の向上を常に求められています。100年近く昔からAI前章の現在に至るまで、我々の歩んだ道のりは決して平坦ではありませんでした。しかしながら、常に新たな挑戦が待ち受けているこの道を我々はこよなく愛しています。

 二代目教授の入江先生が残されたもう一つの言葉に「病む人の気持を」というものがあります。放射線医学では画像や医療技術のめまぐるしい進歩の方に目が向かいがちですが、九州大学放射線科では、患者さんの気持ちに寄り添う伝統、画像だけでなく人を診るという考えが根付いています。患者さんの気持ち(そして他の診療科の医師の気持ち)をおもんばかってコミュニケーションをとることは、医療技術がいかに進歩しようとも決して変わることのない大切なことです。

 診療の質の向上という面で、教育の果たす役割は極めて重要です。九州大学放射線科では医学生教育から専門医教育、そして専門医取得後にも知識のinput、outputを行える環境が整備されています。また、私を含め海外で臨床、教育、研究に従事したスタッフが多数在籍しています。今後も国内外に留学する機会や基礎医学を研究する機会を増やし、広い視野から新たな放射線医学を切り開いていく人材を育成していきたいと考えています。新規、中途を問わず、入局ご希望の方を大歓迎いたします。

 研究では高度な専門性が要求されますが、臨床ではバランス感覚も重要です。特に画像診断の臨床ではsubspecialtyに偏重しすぎずにgeneral radiologyとのバランスをとるか、subspecialtyを極める場合にもmultimodality approachでバランスをとる必要があります。従来の診断グループの区分けが適切かどうかを見極め、他の診療科、保健学科、放射線技師さんをはじめとする多職種と放射線科との間の風通しを良くして診療と研究体制の適正化を検討していきたいと考えています。

 私が着任した令和2年4月は新型コロナ肺炎(COVID-19)の世界的流行の時期と重なりました。COVID-19の流行が終息してもその後の社会、医療情勢は変化します。その中で、我々がどのようにして一定の役割を果たすことができるか考えていかなくてはなりません。

令和2年4月
九州大学大学院医学研究院臨床放射線科学分野
教授 石神康生