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胸部グループ

 胸部グループという名前ですが守備範囲は非常に広く、頭頸部・胸部・乳腺・心/大血管・骨軟部の疾患に対する画像診断・IVRを中心とする診療・研究を行っています。心/大血管に関しては、「分子イメージング・診断学講座」と協力して診療・研究を進めています。最近は、画像診断の精度向上に留まらず、治療効果予測やX線被曝を低減する新たな撮影法の開発にも力をいれています。

頭頸部がんに対する化学放射線治療効果予測

 頭頸部がんに対する化学放射線治療の有効性は広く認識されています。しかし、残念ながら現在の化学放射線治療法では十分な治療効果が得られない患者さんもいらっしゃいます。治療開始前に治療の有効性を予測し、効果が期待できない患者さんには、線量増加あるいは手術等の治療を勧めるなどの対応をとることで予後の改善を目指しています。

 現在までの研究の結果、MRIの特殊な撮影方法(拡散強調画像)から計算した見かけの拡散係数(ADC)と化学放射線治療後の局所制御に関連性があることを見出し、臨床応用の準備を進めています。

 治療開始前の原発巣ADC値が0.86×10-3mm2/sec未満の場合、殆どの症例で原発巣は局所制御されていますが、0.86×10-3mm2/sec以上の場合局所再発が多くなっています。

原発巣ADC値グラフ

低被曝CT撮像法の開発

 肺がんリスクの高い被験者を対象にした米国の研究では、年1回の低線量CT検診による肺がん死亡率は、胸部X線写真を用いた群と比べて20%低いと報告されています。一方で、CT検査による被ばくのリスクに関する報告も散見されます。

 X線量を増やすと画質は改善しますが被曝は増えてしまいます。逆に線量を低く抑えるとノイズが増加し画質が低下してしまいます。近年コンピュータ技術の進歩により新たな画像演算法(逐次近似法)が可能となり被曝低減と画質維持の両立が期待されています。この方法を用い部位別に撮影条件を適正化し臨床応用できるよう研究を進めています。

2mmスライス
0.67mmスライス

上段左:従来法での2mmスライス厚のファントム画像
上段中央:75%被ばくを低減した低線量画像
上段右:新しい画像演算法で作成した75%低被ばく高画質画像
下段左:従来法での0.67mmスライス厚のGGO
下段中央:新しい画像演算法で作成した画像(ノイズ低減率:中)
下段右:新しい画像演算法で作成した画像(ノイズ低減率:大)

デジタルマンモグラフィにおけるハードコピー読影、3メガピクセル液晶モニター、5メガピクセル液晶モニターによるソフトコピー読影の診断能の比較

 画像診断領域においてフィルムレス化が進んでいます。マンモグラフィでは他の診断画像に比べて非常に高い空間分解能を要し、フィルムにプリントしての読影(ハードコピー読影)では25~100μmの解像度が得られます。一方でモニター上での読影(ソフトコピー読影) は5メガピクセルモニターを用いてもピクセルサイズは165μm程度であり、ソフトコピー読影に関する可否については議論の残るところです。近年、5メガピクセル液晶モニターでのデジタルマンモグラフィ読影がFDAで認可され、日本医学放射線学会電子情報委員会のガイドラインでも拡大表示や階調処理などの適切な処理を加えれば5メガピクセル液晶モニターでの読影が可能とされています。一方で3メガピクセル液晶モニターに関しては一定の見解が得られておらず、American College of Radiology (ACR)のガイドラインでは、3メガピクセル液晶モニターも適応できそうであるが、さらなる評価が必要とされています。5メガピクセル液晶モニターは非常に高価であり、より安価な3メガピクセル液晶モニターが適応可能であれば、コストの削減、ソフトコピー診断の普及に大きく貢献しますが、解像度の低下による診断能の低下や、頻回の拡大処理の必要性などによる読影時間の延長などが危惧されています。

 そこで我々は、過去に撮影されたマンモグラフィを用いて、ハードコピー、3メガピクセル液晶モニター、5メガピクセル液晶モニターでそれぞれ読影し、正診率や読影時間に差があるか否かを検討してきました。

 これまでの検討の結果、3メガピクセル液晶モニターによる読影においてもハードコピー、5メガピクセル液晶モニターでの読影と同等の診断能が得られ、読影時間にも大きな差はないという結果がでており、3メガピクセル液晶モニターも使用可能である可能性が示されています。

デジタルマンモグラフィの画像改善

 マンモグラフィの適切な読影を行うためには、まず良好なマンモグラフィ画像を得ることが重要です。マンモグラフィは正しいポジショニングで撮影されていることのほかに、適切な濃度・コントラストを持っている必要があります。デジタルマンモグラフィでは従来のフィルム撮影と異なり、撮影後に濃度・コントラストを調整することが可能です。日本ではデジタルマンモグラフィ検査としてCRシステムを用いた撮影が広く普及しています。このCRシステムを用いたマンモグラフィに対し、自動的に個々の乳房に適した濃度・コントラストを算出し適用するソフトが開発されました。従来は読影者が必要に応じて濃度・コントラストを調整しながら読影を行っていましたが、このソフトを用いることでより適切なマンモグラフィ画像を得ることができ、更に読影者の負担が軽減されることが期待されています。

 現在までの研究で、このソフトを用いて得られたマンモグラフィ画像は従来の画像に比べ良好な濃度・コントラストを持っていることを確認しました。今後は実際に読影者の負担軽減につながるか評価を行っていきます。

MRIによる乳腺腫瘍の評価

 乳腺腫瘍の画像診断としてはマンモグラフィ、超音波、MRIが主として挙げられます。特にMRIにおいては、様々な撮像法が進歩し、形態や血管新生、血管透過性、間質の多寡などに加えて、細胞密度、腫瘍内代謝物質の検出などの形態とは異なる評価が可能になってきています。しかし、従来の研究は良悪性の鑑別、組織型推定や広がり診断に関するものが主でした。そこで、鑑別診断のみでなく、MRI所見と予後、予後因子との関連を検討し、画像所見により悪性度診断や予後予測が可能であるかの研究を行っています。術前に悪性度を判断することで、術前化学療法の併用の適応や術式決定に有用な情報を得られることが期待できます。

乳腺腫瘍の画像診断 乳腺腫瘍の画像診断
乳腺腫瘍の画像診断 乳腺腫瘍の画像診断

早期原発性肺癌のすりガラス影比率と3次元集光照射後局所再発の比較

 肺癌に対する3次元集光照射は良好な治療成績が報告されていますが、再発症例も見られます。治療開始前のCT所見から再発の可能性を予測できれば、他の治療法を選択する等の対応が可能となります。

 治療前に撮影された高分解能CTで原発巣のすりガラス影比率により分類し、再発との関連を統計学的に解析しました。その結果、すりガラス影の比率が高い症例は,低い症例に対して再発が少ない傾向が見られました。

すりガラス影比率